《MUMEI》 . 駐車場に向かう途中、 センターの入口の花壇に咲いている鮮やかな花に、目が奪われた。 色とりどりの、花々。小さな花は、まっすぐに咲き誇っている。 「百日草……」 俺は、ぽつんと呟いた。 栞おばさんは俺の顔を見上げて、「正解でーす!」と笑う。 「もうそんな季節になったんだねー。いやだわ、また年取っちゃう」 おばさんはクスクス笑いながら、車椅子をこいでゆっくり駐車場へ向かった。 俺は百日草を見つめたまま、立ちすくんでいた。 脳裏をよぎる、 その、笑顔。 大好きだった、 あの、声。 様々な思い出が胸の中を溢れて、 そして消えていく…………。 俺が立ち止まっていることに気づいたおばさんは、車椅子を反転させて、ほほ笑んだ。 「百日草、すきなの?」 俺は瞬いた。 おばさんはつづける。 「覚えてるかな?昔、百日草の花言葉、教えたんだけど……」 俺はもう一度、瞬いた。 百日草の、花言葉。 遠い昔、 まだ、高校生だった頃、 百々子さんと、同じ時間を、過ごしていた、あの頃。 この花を、初めて、知った。 栞おばさんは、「忘れちゃったよね!」と明るく笑う。 笑い声を聞きながら、 俺はゆっくり、顔をあげ、 栞おばさんへ視線を送った。 そして、 切なく震える胸の気持ちを抑えながら、 覚えてるよ、と呟き、 ゆっくりほほ笑んでみせる。 「『別離した友への想い』……でしょ?」 …………そう、それは、 あの夏、眩しいくらい輝いていた、 遠い日の、彼女への−−−。 −FIN− . 前へ |次へ |
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