《MUMEI》 . 一生懸命思い出そうとしたが、興味が無かったので、よく覚えていなかった。 腕を組み、真剣に考え込もうとした、 そのとき。 「あれ、未定ですよ」 突然、倉澤が言った。 わたしとお母さんは同時に倉澤を見る。彼は冷めた表情を浮かべて、つづけた。 「コンセプトが理解出来ないんで、まだ保留にしてるんですけど」 そう言ってお母さんを見つめて、眉をひそめた。 「ポスター、張り出されてたんですか?」 低い声だった。まるで怒りを抑えるような。 倉澤の質問に、お母さんは慌てて頷く。 「ええ……そこの美大の、『クラサワ マドカ』さんってひとの名前が書かれてて」 それを聞き、わたしはハッとする。 ……それだ!!それ! 『クラサワ マドカ』だ!!」 確か、長島君が言っていたのも、『クラサワ マドカ』だったはず。 倉澤はお母さんの返事を聞いて深いため息をついた。 「勝手なことを……」 毒づき、舌打ちまで付け足す。 お母さんは倉澤に向かって、ニコニコしながら言った。 「『クラサワ マドカ』さんて、すごい方みたいねぇ。たくさん賞をいただいてるって、紹介されてましたよ」 そしてのんびり、「お知り合いなんですか〜??」と尋ねた。 対して倉澤は、「……は?」と顔をしかめる。 しかし、お母さんは気にとめず話しつづける。 「近くにそんなすごいひとがいるなんて、一度お会いしたいわ!?どんな女の子なのかしら??」 お母さんの台詞を聞いて、倉澤と竹内さんは顔を見合わせる。 そして、ようやく理解したように頷き合った。 竹内さんがお母さんの顔を見て、笑う。 「もう、会ってますよ」 彼の言葉に、お母さんは首を傾げた。 「どこかでお会いしたかしら??」 竹内さんは可笑しそうに笑って「女の子じゃないですよ!!」と言い、それから隣の倉澤を指差して、答えた。 「『クラサワ マドカ』は、彼のことです」 …………は?? . 前へ |
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