《MUMEI》 休日の過ごし方. まだ、高校生だった。 −−いま、ここで選べよ。 切羽詰まったような声で、彼はわたしに言った。目をそらすことが出来ないように、その大きな手のひらで、わたしの頬をつつんで。 それはいつになく、真剣な眼差しだった。 わたしは、そのするどい視線にいすくめられたように、身動きがとれなかった。 《あの日》から、8年が経った、 いまになっても………。 ****** わたしは、え?と聞きかえした。ぼんやりしていて話を聞いていなかったのだ。 ここは、行きつけのネイルサロン。初めてここを訪れたのが、まえに勤めていた会社を辞め、派遣社員になってからなので、通いはじめてもう2年になる。 このサロンは美容院も併設されていて、まだ昼前だというのに、お店の中は結構、混み合っていた。 小さなテーブルをはさんで、わたしの爪に丁寧にジェルネイルを塗っていたネイリストさんが一度、筆の動きをとめた。そして真剣な顔をして、聞いてくださいよ、と身を乗り出す。 「わたしの友人が、こんど結婚するんです」 わたしは、へえ!と、わざと明るく相槌を打った。 「それは、ステキですね」 笑顔でそう返したものの、正直、他人の結婚の話など、興味がない。顔も名前も知らないような相手なら、なおさら。 ネイリストさんは、ステキですよね…と頷きながら、筆にカルジェルを取り直して、ふたたびわたしの爪を塗りはじめる。 「…でも、なんかヘコんじゃって」 わたしは首を傾げた。 ネイリストさんはため息をつく。 . 次へ |
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