《MUMEI》 . 「先週なんですけど、わたし、仕事のミーティングで帰りが遅くなっちゃって、終電に乗ってたんですよね」 いきなり話が変わったので、わたしは戸惑ったが、ええ…と、とりあえず相槌を打っておいた。 ネイリストさんは口を動かしながらも、手を休めることなく、わたしの爪にジェルをきれいに塗っていく。 「それで電車の中で、ミーティングの資料を読んで、みんなの意見をノートにまとめていたんです…家にまで仕事を持ち込むのは、どうしてもイヤで。資料とにらめっこをして、文章をまとめるのに没頭していたんです」 わたしは、わかります、と頷いた。その気持ちはよくわかった。 わたし自身も正社員として働いていた頃は、、職場で終えることができなかった仕事は、通勤時間を利用することがしばしばあった。《片道1時間》という長い時間を、ただ無駄に過ごすより、すこしでも仕事を片付けた方が効率的だ、と思うからだ。 「わたしも、よくやりますよ」 わたしの返事に、ネイリストさんは一度、ほほ笑んだが、すぐにまたため息をついた。 「そのとき、携帯にメールが届いたんですよ。高校の頃の友人からでした。メールのタイトルに『ご報告』って書いてあって、そこで、なんとなくピンときたんですよね。ああ、結婚するのかなって」 彼女が言い終えると同時に、シャンプーボーイが元気よく、お疲れ様でした〜!と叫びながら、客をカット台まで案内するのが見えた。 . 前へ |次へ |
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