《MUMEI》

.

ネイリストさんは、ジェルを塗り終えた手を、テーブルの下にあるUVライトの中に入れるように言った。わたしは言われたようにして、逆の手を彼女の方へ差し出す。

彼女は差し出したわたし指の爪の長さを確認してから、ふたたび筆を取った。筆にジェルをのせながら、呟く。

「メールを読んでみたら、案の定、デキ婚で。2ヶ月後に式を挙げるって内容でした。すっごい幸せ〜っていうのが、文面からもわかるくらい、かわいいデコメールで…それを見た瞬間、頭の中、一瞬真っ白になったんですよ」


−−《わたし、なにやってるんだろう…》って。


ネイリストさんの言葉に、わたしは視線をあげた。彼女はわたしの指先に視線を向けて、ジェルネイルを仕上げながら、つづけた。

「わたしが仕事一筋で突っ走っていた間に、まわりの友人たちは、着々と結婚にむかってすすんでいたのかって。なんだか、取り残された気分になっちゃって」

…へんですよね、こんなの。

喜んであげなきゃいけないのに、

『おめでとう』って素直に言えない、自分がいるんです………。


ふぅっと、軽いため息をついて、ネイリストさんはわたしの手から顔を離し、筆の毛先をペーパーで、丁寧に拭った。そしてわたしの顔を見て、ストーンはのせますか?と聞いてきた。わたしが頷くと、彼女は近くの棚から、ビーズケースを取り出した。

.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫