《MUMEI》 《来客》. わたしは、ネイリストさんにほほ笑んだ。 「わかりません。想像、できないな。わたしがだれかと、バージンロードを歩いている姿なんて」 わたしの返事に、ネイリストさんは、またまたぁ〜!と首を傾げ、悪戯っ子のように笑う。 「そんなこと言ってるひとほど、電撃結婚とか、しちゃうんですよね〜」 からかう彼女に、わたしはふんわりとほほ笑んだ。 お店のレセプションで会計を済ませた客が入口のドアを開けて、その拍子にドアについていた鐘が、カランカラン…と渇いた音を立てる。 颯爽とお店から立ち去る客にむかって、ありがとうございました〜との、スタッフの明るい挨拶だけが、鼓膜に響いた−−−。 サロンを出て家に帰るころには、もう夕方になっていた。 家の前までやって来ると、見覚えのある大きなバイクがひとつ、停まっていた。それを見たわたしは、おもわず足をとめる。 −−…来たんだ。 珍しい、とおもった。 あまり実家に寄り付くことは、ないのに、と。 そして、自分が、ひどく冷静でいられることに、驚いた。 《あの日》から確実に、時は流れているんだ、と思い知る。 わたしは一度、瞬き、それからバイクの脇をすり抜けて、玄関ポーチの門扉を開いた。 . 前へ |次へ |
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