《MUMEI》 . 完全な八つ当たりだったが、父は、ふたたびテレビを見ていて、ん〜?と生返事をしただけだった。そんな夫の姿にあきれたのか、母は、まったく、もう!とため息をついて、ようやく腰をおろした。 リビングに、沈黙が訪れた。 つけっぱなしのテレビから、若いアイドルの耳障りな笑い声が流れてくる。 わたしは、もう一度、ちらっと尚を見た。 尚はアイスコーヒーを飲みながら、黙ってテレビを見つめていた。 その横顔は、8年まえのものよりも、大人びて見えた。 わたしが尚に見とれていると、視線を感じたのか、突然、彼が振り返り、わたしと目が合った。 「なに?」 尚は不思議そうに尋ねてきた。わたしは、ざわめく胸の内を覚られまいと、目を逸らす。それを尚は、見逃さなかった。 「なんだよ?」 ぶっきらぼうな言い方に、わたしは一度瞬き、だって…と呟いた。 「家に帰ったら、いきなり尚がいるから」 ぼそぼそと答えると、尚は半眼でわたしを睨む。 「自分の家に帰ったら、いけないのかよ」 「そういう意味じゃない」 「じゃあ、どういう意味?」 言い合うわたし達に見兼ねた母が、やめなさい、とたしなめた。 それでも、わたしの気はおさまらない。 . 前へ |次へ |
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