《MUMEI》
きょうだい。
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わたしは尚の顔を見て、冷たく言った。

「滅多に顔を見せないひとが、一体なんの用?」

刺のある口調で言ったわたしに、尚は、仕事が忙しいんだよ、と飄々と答えた。その態度がまた、鼻につく。

「仕事、仕事って、エラソーに。いつからそんなに真面目くんになったのよ」

ついに母が、芽衣!と厳しい声でわたしを呼んだ。わたしはフンと鼻を鳴らして、あさっての方をむいた。

そんなわたしの耳に、母の声が流れてくる。


「いい加減にしなさい。子供みたいなケンカして、大人げないわよ。もっと、仲良くしたらどうなの。ふたりきりの兄妹なんだから」




−−きょうだい。




その言葉が、頭にこびりついた。

きょうだい。兄妹。キョウダイ…。



………そう。


わたしと、尚は、世間で言われるところの、『キョウダイ』だった。





******





尚と初めて出会ったのは、ほんとうに小さかった頃のこと。



わたしは、実父をしらない。おもい出もない。死んだのか離婚したのか−−わたしのことをまだ幼いと侮って、母は実父がいない理由を、わたしに教えてくれなかった。

母はひとりで働き、わたしを育ててくれた。

どんな理由であれ、女のひとがたったひとりで子供を養って生きていくのは、つらかったことも多かったに違いない。


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