《MUMEI》 . わたしは視線を流して、リビングの窓から外をながめた。 そこには、小さいが自宅の庭が広がっていて、庭の片すみには、大きな犬小屋がある。愛犬であるゴールデンレトリバー、ルカのものだ。 ルカは犬小屋から少しだけ顔を出して、リビングの方を、恨めしそうにじぃっと見つめていた。 わたしはルカを見つめ返しながら、呟いた。 「まだ、散歩行ってないの?」 だれに尋ねるともなくそう言うと、母が頷き、答えた。 「だって、お父さん、テレビばっかり見て動かないんだもの」 チクリと小言をいわれたが、父は聞こえないふりをしてテレビを見つめた。わたしはそんな両親を見て、ため息をつき、ふたたびルカの方をながめた。 ルカは相変わらず、恨めしげにわたしを見つめていた。このまま放っておけば、拗ねるのも時間の問題だ。 重い腰を持ち上げて、わたしは両親に言った。 「じゃ、ちょっと行ってくるよ」 わたしの声に父が振り向き、よろしくね、と明るく言ってきた。 わたしはそんな父を半眼で睨み、それからリビングを出ようとした……。 そのとき。 「じゃあ、俺も」 伸びやかな尚の声が、聞こえてきた。わたしは足を、とめる。 . 前へ |次へ |
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