《MUMEI》

「次、何に乗る?」

修平さんはのんびりと聞いてるが、俺はすぐにでも逃げ出したかった。


「……ミラーハウス」

七生の中では決まっていたらしい、手を掴まれた。


「七生……」

振り切ることも出来たが、俺はしなかった。
出来なかったの方が正しい。
七生の手の温もりが張り付いて、離れない。


七生の半ば強引な誘導で、ミラーハウスに入る。
薄暗い鏡からは多角面から七生と俺が映り込む。


「瞳子さんを放っておいて……最低だな。」

憎まれ口しか叩けない自分が悔しい。


「二郎が俺と同じ空間にいるのに見えないなんて、嫌だ……」


「子供っぽ……、母親にべったりの甘えっ子みたいだね、瞳子さんの前でそんな姿晒さないようにしなよ。幻滅されるぞ?」


「なあ、それ、なんなの?俺が駄目なの?嫌なら嫌って言って?」

七生の妙に穏やかな声色に鳥肌が立つ。


「ちがう、嫌とかじゃなくて……」


「じろー、何を言われたか知らないけど、俺のこと信じられないの?」

鏡に、七生の後ろ姿がいつまでも続いている。


「信じる信じないも、俺にはもう関係ない……七生とはもういられない。」


「捨てるの?」


「ちがう……」


「分かるよ、俺そういうの分かるんだ。」

確かに七生は、恋愛経験豊富だ。


「七生……、もっと早く気付いてあげたかった。」

七生の俺への気持ちが温か過ぎて、俺は駄目になっていると分からなかった。
七生も俺も、今戻らないと引き返せなくなる。


「俺達、どうなるの?」

友達から、恋人……その次はなんだろう。


「分からない。でも、七生の言いたいことはなんとなく分かるよ。」


「……じろー、今日までは、俺達ちゃんと友達してていいよな?」

あと一日で、俺の七生じゃなくなる……。


「いいよ。」

頭では分かっている、そして簡単に頷くことも出来た。

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