《MUMEI》 プロムナード. わたしたちは、ルカを連れて、歩きはじめた。 ****** 「冗談で、こんなこと、しない」 −−−8年まえの、夏休み。 蝉が喧しく、鳴いていた、《あの日》。 尚の声はまっすぐに、わたしの胸の奥まで届いた。 「もう、どうなっても、構わない。俺は、芽依が−−−」 ……やめて。 それ以上は、ダメ。 壊れてしまう。崩れてしまう。 脆く、脆く。 跡形もなく、消え去ってしまうから。 「いま、ここで、選べよ」 今まで築き上げてきた、 わたしたちの、『家族』の絆が………。 外は、よく晴れていた。 日が傾きはじめていて、太陽が少し、オレンジ色に染まっていた。 近所にある、大きな公園。 たくさんの木々がしげる、石畳のきれいな散歩道。いつも、ルカの散歩に利用する場所だった。 わたしと尚は、隣に並んで、ルカを連れて歩いていた。ふたりの間に、会話は、なかった。 ただ、黙り込んだまま、わたしたちは、歩いていた。 ルカはあちらこちらの臭いをかぐことに、夢中になっているようだった。落ち着きなく、そわそわうろうろと、リードを引っ張り、歩き回っていた。 「だれも、いないんだな」 急に尚の低い声が聞こえて、わたしはビクリと肩を揺らした。それから彼を見上げる。尚はわたしを見てはおらず、ただ遠くの方を見つめていた。 . 前へ |次へ |
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