《MUMEI》 . 尚はつづける。 「まだ明るいのに…散歩してるやつ、いなくね?」 キョロキョロと周りを見回している彼に、わたしは冷めた声で、土日はみんな早めに散歩してしまうの、と答えた。 「週末は、家族でゆっくり過ごしたいんでしょう」 尚はわたしの顔を見ないまま、ふぅん…と興味なさそうにうなった。わたしも彼から目を逸らす。 ……すぐ隣にいるのに。 ふと、おもった。 すぐ隣にいるのに、 手を伸ばせば、届く距離にいるのに、 一 番 遠 い 。 それは、今、気づいたことではない。 ずっと、むかしから。 8年まえの、あの夏の日から。 わたしたちは、わかっていた−−−。 突然、携帯が鳴った。 その音に反応したルカが、じっとわたしたちを見上げる。 わたしのではない。 尚の、だった。 彼は立ち止まり、ポケットから携帯を取り出して、躊躇うことなく電話に出た。 「もしもし…?」 普段と変わらない、抑揚。 相手は、だれなんだろう…。 気になったが、わたしはあえて尚に顔をむけず、しゃがみ込んでルカの頭をなでた。ルカはうれしそうに、わたしにその大きな身体を擦り寄せて、地面の上にごろりと横になる。 . 前へ |次へ |
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