《MUMEI》

母の隣で兄を見送っていたわたしは、彼女の顔を見上げて、ムダだよ、と冷たく言った。

「大事な大事な彼女に、会いにいくんだもん」

それから尚の顔を見て、ね、お兄ちゃん、とわざとらしくニッコリ笑って見せた。尚は、迷惑そうに眉を歪めて、芽衣!と荒々しく名前を呼んだ。
わたしの言葉に、母は眉をひそめる。

「付き合ってるひとがいるの?どんなひとなの?会社で知り合ったの?」

まるで、マシンガンのように次々と質問をする母に、尚はほんとうに困ったようだった。それについてはまた今度…、と言葉を濁して、彼はわたしたちの視線を避けるように、フェイスガードを下げた。

「また、来るよ」

そう呟き、勢いよくエンジンをかける。喧しい音をたてながら、バイクを走らせはじめた。去っていく息子の背中にむけて、母は、こんど彼女を連れてきなさいよ!!と、大声で叫んだ。

母の声が、きちんと届いたのかわからないが、尚は左手を少しあげて、肩越しにわたしたちを振り返り、夕闇の中へ颯爽と消えていった。






******






尚がよそよそしくなったのは、わたしが中学に上がった頃のことだった。

それまで、仲が良いというか、子供らしいケンカをよくしていたが、それが一切、なくなった。

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