《MUMEI》

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「おはよう、芽衣ちゃん」


派遣仲間の浅木 久美子が挨拶を、爽やかに返してきた。久美子とは、派遣先であるこの香水会社で知り合った、数少ない友達のひとりだった。

久美子はもともと、わたしと同じく販売経験者で、結婚を機に退職をし、今は派遣でお小遣稼ぎをしているらしい。


わたしは笑顔を返して、私物入れの棚に自分のバッグをしまう。

「久美ちゃんも、今日ここのお店だったんだね〜」

見上げながらそう言うと、彼女はうれしそうに笑い、よろしくね、と答えた。

わたしたち派遣販売員は、さまざまな店舗をまわされ、イベントやセクションと呼ばれる元売りの売場の手伝いをするのだ。

だから今日みたいに、顔見知りの派遣仲間と違うお店で一緒に働くことがある。

久美子はわざとらしくため息をつきながら言った。

「おととい、銀座のセクションに行ったら、めちゃくちゃヒマで死ぬかとおもったよ。5時過ぎたら、お客さんなんか来ないんだもの」

それを聞いたわたしは、ああ〜と曖昧に頷いて、答える。

「わたしはおととい、池袋でイベントだった。閉店ギリギリまでお客さんがいてね。残業しちゃった」

派遣なのにさー、と愚痴をもらす。久美子は合わせるように、それは災難だったねぇ、と呟いた。


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