《MUMEI》 . ひとしきり愚痴を言い合ってから、わたしはイベントスペースに目をやる。 デパートの入口近くに設置された即席の売場は、小さなカウンターがひとつと、ディスプレイカウンターがひとつ。そして背後には、商品を陳列した棚がそびえ立っていた。 イベントスペースを見上げて、わたしはため息をついた。 「今回はまた、ずいぶん張り切ってるねぇ…」 独り言のようにぼやくと、久美子も、全くだ、と頷いた。 「さっきセクションの子から聞いたんだけど、この新作、香りがかなり個性的でさ、キワモノみたいな感じらしいよ。売るの、難しいかもね」 その台詞に、わたしは、ふぅん…と唸った。そして、ディスプレイカウンターの上に、整然と並べてあるフレグランスのテスターに目をむける。 最初見たとき、ほにゅう瓶みたいだ、とおもった。 流線型のまるみを帯びたデザインのボトル。てっぺんにぽこっと突き出た白いメダル製のキャップ。ベージュピンクのジュースが満たされたガラス製の瓶の表面には、ブランドのトレードマークである、白のスタイリッシュなチェック柄がプリントされている。 そして、なにより気になるのは、ボトルの横に、ストラップのようなものがぶら下がっていて、そのシルバーのプレートに、小さく英字が彫られていることだった。 これだけエキセントリックなデザインのボトルなら、置いておくだけでも、じゅうぶんアイキャッチになる。 本社の方が売上を期待するのも、少し、わかる。 . 前へ |次へ |
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