《MUMEI》

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久美子は矢代さんにかわいらしく挨拶してから、尋ねた。

「今日は、この香水なんですね〜。新作って聞いたんですけど」

矢代さんは頷く。

「そうなの。まだセクションの人間も売り慣れてないんだ。でも、出来るだけサポートするから、一緒に頑張りましょうね」

ニッコリ笑って、とりあえず今日の目標は10万で、とさらに付け足す。

「売上に執着しなくていいからね。数字も大切だけど、まずはお客様に、新作が出ました〜ってアナウンスするのが重要なんだから」

矢代さんは優しくほほ笑んだ。


それから、彼女はわたしたちに簡単な香りの説明をしてくれた。


「ザ・ビートっていう名前で、女性用の香水…あ、オードトワレね。だから、2、3時間くらいの持続性があります。

香調は、グリーン フルーティ フローラル。

イタリアンマンダリン、ベルガモットの柑橘系の香りに、ピンクペッパー、カルダモンのスパイス。メインは、セイロンティーとブルーベル、それからマルメロフラワー…カリンのお花ね。
ラストノートは、シダーウッドとムスク、それからアイリス。

全体的に、ソフトな感じがするかな。やっぱり、お花の香りがふんだんにブレンドされてるからね」


一息にぺらぺら説明されて、正直、頭に入ってこなかった。わたしと久美子が難しい顔をしていると、矢代さんは、一度香りを試した方がいいかな、と呟き、ムエットに香水を吹きかけた。

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