《MUMEI》 . ふわっと、爽やかな香りがわたしたちを包み込む。 「良い香りですね。これなら、お客さんの反応も良さそう」 先程の久美子に聞いた話から、勝手に変な香りを想像していたが、これならじゅうぶん売れそうだ。 ムエットを受け取ったわたしがそうコメントすると、矢代さんはうれしそうに、そうでしょう、と華やいだ声で言った。 「とてもナチュラルだし、上品だからわたしも期待してるの」 わたしの隣で、ムエットを香っていた久美子が、でも…と呟く。 「やっぱり少し、個性的ですよね。独特な甘みもあるし」 矢代さんは頷く。 「スパイスも入ってるからね。でも、他のひとと差をつけていただける香りですよー、って言うと、案外お客様も納得してくれるから」 わたしと久美子は、へぇ〜と感心したように唸った。 矢代さんはつづける。 「《鼓動》という名前の香水なんだけど、そのイメージにピッタリな躍動感のある香りでしょう?最初のすっきりした香りから、だんだん甘く柔らかい雰囲気に変わっていくんだけど、それが、女性の二面性を表現しているんだって。ユニークよね」 わたしは瞬いた。 オンナの二面性か……。 よく、『オンナは二つの顔を持つ』って言うものね。 . 前へ |次へ |
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