《MUMEI》 行動車の揺れは疲れたユウゴの眠気をさそう。 寝てはだめだと自分に言い聞かすが、まぶたは容赦なく閉じようと重みを増してくる。 なにか音楽でもあれば気が紛れるのだが、もちろんCDなど持っているわけもなく、ラジオもついていない。 ケンイチはすでに眠りの中なのだろう、後ろから見える頭が時々カクンと落ちては戻ってくる。 エンジン音だけが響く静かな車内でユウゴはウトウトと心地好い時間を過ごした。 そんなユウゴの目を覚ましたのは、突然襲った凄まじい衝撃だった。 甲高い急ブレーキの音と共に横滑りする車体。 その後部座席でユウゴは前の座席にしがみつきながらその衝撃に耐えた。 間もなく車は止まり、ユウゴは何が起こったのかと伏せていた顔を上げる。 「いってぇ! 舌噛んだっ」 助手席から目に涙を溜めたケンイチが顔を覗かせた。 ユウゴは彼を無視して運転席を覗く。 そこには開いたエアバックの中に突っ伏した状態の織田がいた。 「おいっ!」 慌ててユウゴが彼の体を揺すると、織田は意識を取り戻してゆっくりと顔を上げた。 その顔は赤く擦り切れたようになっている。 「大丈夫か?」 聞いたユウゴに織田は頷いて答え、そして窓の外に目をやった。 「だが、状況は大丈夫ではなさそうだ」 低い彼の声を聞きながらユウゴも外を見る。 すると車道の真ん中に黒いトラックが道を塞ぐようにして停まっていた。 前へ |次へ |
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