《MUMEI》
お子様一名
「……じろー、好きだよ」


「やめろ」


「すき」


「いやだってば」


「すきだ」

繰り返すやり取りが平静を保てなくさせる。


「そんな言い方ってない……苦しいだけだ。」

七生の言葉が俺を刺す。
聞きたくないなら耳を塞げばいいのに、上手く出来ないままでいる。


「友達なら、なんともないよね。」

そうだ、そうだけど七生は友達の瞳じゃない。


「そうだよ……なんともない。」


「だからこれも、なんともない。」

[これ]は、ごくごく自然な口づけだった。
咄嗟に後退したが、後ろは鏡で身動きが取れない。


「ふ…… ンッ」

覆い被さるような舌の流動に卑猥な音が連鎖した。
ひっくり返る舌先と伝う唾液、漏れる吐息も全部全部、されるがまま。
七生から逃げられない。




「……ななおとは、きっともうだめなんだよ……」

肩を押して反動で離れる。


「そう……、そうだ……俺、日本に居ないかもしれない。これは二郎への別れの証だから。」


「うん。」

さよならの接吻は、気持ち良くて痛い。

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