《MUMEI》 待ち合わせ. 午後、7時過ぎ。 待ち合わせ場所の、新宿駅南口改札前は、たくさんのひとでごった返していた。 大きな円柱の柱の前で、わたしはぼんやり立っていた。 本当に、様々なひとたちがいた。 入れ違いに、忙しなく、改札口を出たり入ったりする会社員や学生。天井からぶら下がる電光掲示板を眺めて、立ち尽くすひと。手を繋ぎ、微笑み合いながら、その脇を通り過ぎるカップル。 途切れることのないひとびとの流れを見つめながら、わたしは、わたしの心は、どうしようもない疎外感に満たされていた。 だれも、わたしを見ない。存在に、気づかない。 まるで、その瞳に、わたしの姿など、うつっていないかのような。 そんなことを考えながら、わたしはひたすら待っていた。 少しして、 改札口から、たくさんのひとが流れ出てきた。わたしは、そちらに視線を向ける。そこを通り過ぎると、みんな、思い思いに散り散りになっていく。 その中の、 スーツ姿の男のひとに、目が、止まった。 すらっとした長身。短く切られた髪。しなやかな、腕。 そして、炎のような烈しさを秘めた、その瞳。 わたしの胸が、鳴った。それと同時に、彼はわたしを見つめて、歩み寄る。 「お待たせ」 澄んだ、声。いつもと同じ、抑揚。なのに、胸が切なくなるのは、なぜなのだろう。 「お疲れさま」 わたしが、そう言うと、彼は目元に微笑みを浮かべた。烈しい光に輝いていた瞳が、その一瞬で、優しく滲む。 わたしの心臓が、キュッと軋んだ。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |