《MUMEI》
選んだ理由
「厳が選んだのは、石川くるみちゃん。

それでいいのね?」

「うん。

思い出したから、ちゃんと」


厳の言葉に、全員


放心状態の松本以外が、首を傾げた。


「初めて二人に会った時の事。

二人共、はっきり言って、俺のタイプじゃなかったし、恋愛感情なんてさっぱり無かったけど…

でも、何か気付いたら気になって声をかけてた。

それで

くるみには、名前訊いて、自分も名乗った。

…俺、人の名前、なかなか覚えないのに

くるみは、すぐに覚えたんだ。

今思うと、その頃からきっとくるみは、俺の中で特別だったと思う」


(そうか)


厳の言葉を聞いて、俺は納得した。


厳は、松本に初めて会った時、松本に名乗らず、名前も訊かなかった。


ナンパだったからと言えばそれまでだが


その後


厳は松本と同級生になっても、しばらく松本の顔と名前を覚えていなかった。


その事実は


石川との違いは


松本をますます落ち込ませていた。


その瞳からは


今にも涙が溢れ落ちそうだった。


「ごめん、美鈴」


厳がそう言った瞬間、松本の涙が溢れた。

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