《MUMEI》
選ばなかった理由
「美鈴ちゃ…」

「今まで、本当にごめん」


厳は俺に石川を任せ、うつ向く松本の前に移動し


深々と、頭を下げた。


松本は


何も言わずに泣いていた。


「ごめんね」

「……」

「もう、無理しなくていいからね」


(無理?)


俺はわけがわからなかったが、言われた松本は心当たりがあるらしく


ピクリと反応し


涙もおさまってきていた。

「とりあえず、その…

似合わない、化粧、落とそうか」

「おい、厳」


(いくらなんでもひどくないか?)


そう思い、厳を睨んだが


「いいんです…」


松本がそう言うから、俺はそれ以上言えなかった。


「道具全部洗面所にあるから、ちゃんと、化粧してきて」

「? …はい」


(何でこの家に若者向けの化粧品が?)


俺は思わず、果穂さんを見た。


「私のじゃないわよ。選んだの、志貴だし。

お詫びも兼ねてだから、そのまま持ち帰っていいからね」


(何で志貴?)


新たな疑問に、俺はまた首を傾げた。


そして、数分後。


「お待たせしました…」


戻ってきた松本を見て、俺は『無理』の意味を理解した。

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