《MUMEI》

上手く視線が合わせられないから七生と瞳子さんの後ろ姿を追いかけた。
俺は七生とキスした唇で、瞳子さんを応援する。

瞳子さんならきっと大丈夫だ、綺麗で才色兼備なお嬢様だもの。
きっと、七生も瞳子さんが好きになるだろう。


観覧車も修平さんと俺はわざと二人きりにするために遅れて乗った。

頭上に二人が通り過ぎる。


「二郎君……大丈夫?ぼんやりしてるよ。」

よほど間抜け面だったのか、指摘されてしまった。


「あ、はい。」


「七生ってさ、二郎君のこと好きだよね。」

心拍数が上がる。


「あはは、まさか。」


「だって、二郎君の目を見るとき違うよ。これが、幼なじみってやつなんだなと思ったよ。……二郎君の七生に対する細かい気遣いも分かるし。さっき、七生のひっくり返ったフード直したり。」

よく見てらっしゃる。


「七生と俺はずっと一緒でしたし、でも最近はよく分かりません。向こうも同じだと思いますよ?」


「二郎君と七生にはずっと友達で居て欲しいな。
私は自分のことばかりで幼なじみなんていなかったから。凄く、二人の関係が羨ましいよ。」

生まれながらに北条の跡取りだった修平さんは幾つも犠牲を払ってきたんだろう。


「俺は平凡な人間だから、修平さんのような生き方にも憧れます。」

この人は我慢もしたけど正直に生きてきたに違いないから。




「二郎君、本当にそう思ってるの?皆、一人一人が特別な存在なんだよ。リサはそう言ったんだ。」

握ってくれた修平さんの手は七生のように熱っぽい。


「俺もリサさんみたいに、心の中に居られる存在になれますか?」


「なれるよ。」


「……あの、もう一度いいですか?」

七生に言われてるみたいだ、もう一度だけと欲張ってしまう。


「これ以上は無理かな、特別な人にしか言えないからね。言魂の効力が無くなってしまう。」

対面した席で夜景を眺める、そんな修平さんは素敵だ。

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