《MUMEI》 . なんのこと?と、口にする、 それより早く、尚が言った。 「芽衣が好きだ。もう、我慢出来ない」 わたしは、震えた。なにかに、怯えるように。一体、なにに怯えたのか、わからないけれど。 いいえ、本当はわかっていた。 間違いなく、わたしは、目の前の尚に、わたしの知らない、『男』の顔をした兄に、怯えていた。 「なに、言ってるの?」 やっとのことで返した声が、震えてしまった。必死に考えようとしてみたけれど、やっぱり、理解出来なかった。 どうして、キスなんかしたの? どうして、『好きだ』なんて言うの? どうして、 どうして、 どうして−−−。 たくさんの『どうして』が胸の中に浮かんでは消え、浮かんでは消え、しかし、それを何度繰り返そうとも、確かな答えは導き出せなかった。 「悪い冗談、言わないで」 冗談だ、と思いたかった。どんなに考えても、尚の気持ちが、わからなかった。 震えは止まらず、奥歯がカチカチ…と音を立てて鳴った。 尚は、わたしを見つめていた。 烈しい光を宿した、その目を逸らすこともなく、 呻くように、呟いた。 「冗談で、こんなこと、しない」 泣き出しそうな、抑揚だった。 尚が言った、『こんなこと』というのは、きっとキスのことだ。 どうして、 と、また思った。 …………どうして? わたし達、『キョウダイ』なのに………。 胸に沸き上がったそんな台詞を、わたしは口にすることが出来なかった。 わたしをまっすぐに見つめる尚の瞳が、悲しそうに、切なそうに、苦しそうに、揺れていることに、気づいてしまったから。 . 前へ |次へ |
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