《MUMEI》
呟いた言葉
.

尚は、わたしの胸に額を擦り寄せてきた。抵抗は、しなかった。出来なかった。抵抗しようなんて、考えもしなかった。そんな余裕は、あのときのわたしには、なかった。


ただただ、呆然としていて、この現状を、理解しようと、それだけに必死で。


わたしの胸に顔を埋めながら、尚は、子供のように、頼りなく、ぽつんと、言った。


「ずっと我慢してた。ずっと、気持ちを抑えていたけど、もう、限界なんだ」


そこまで言って口をつぐむ。わたしは、ゆっくり、胸元を見下ろした。尚の頭が、すぐそこにあった。

尚は、そのまま、つづける。


「《キョウダイ》なんて、真っ平だ。こんな馬鹿げた家族ごっこ、うんざりなんだよ」


悲しい響きを持った言葉だった。

いまだ呆然としているわたしの背中に、彼の腕が回された。その腕に、力が込められるのを感じた。

恐怖に似た感情が、わたしの胸に込み上げてきた。


「尚、やめて」


わたしは、懇願するように、言った。けど、それも無駄だった。尚はわたしを抱きすくめたまま、呟いた。


「もう、どうなっても、構わない。俺は、芽衣がいれば、それでいい」


『どうなっても、構わない』。

その台詞はきっと、家族が、ということだろう。

尚は、わたしが手に入れば、どうなってもいいのだ。

例え、それで、《家族の絆》が、壊れることになったとしても。

目の前にある、尚の白いつむじを見つめながら、わたしはお父さんとお母さんの顔を思い浮かべた。



幸せそうに微笑み合う、両親のその顔が、

醜く歪む。


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