《MUMEI》 . −−−尚のことは、好きだ。 でも、それと同じように、わたしは、両親のことも、愛していた。 尚に対する、この気持ちは、《家族愛》以外のなにものでもなかった。 それ以上の感情は、あの頃のわたしの中には、なかったのだ。 わたしは、どうして…と呟いた。 わたしの呟きに、尚はゆっくり顔をあげる。その瞳と、わたしの瞳が見つめ合う。 わたしは彼から目を逸らさず、言った。 「お母さん、お父さんと結婚して、すっごく幸せそうなんだ。それなのに、その幸せを壊すようなこと、しないで……」 尚に、わかって貰えるように、言った。 こんなつまらない一般論でも、きっと尚なら、わかってくれると信じていた。 けれど、その言葉が、尚の中のなにかに触れてしまったようだった。 尚は途端に眉をつりあげて、わたしの肩を力強く、掴んだ。わたしは、その瞳の強さに、その力に怯えて、身体を強張らせる。 尚は怯えるわたしに、なんだよそれ、と激昂した。 「そんなに家族が大事か?じゃあ、俺の気持ちは、どうなるんだよ」 ギリギリと肩が締め付けられる。彼に掴まれている場所が熱を持ち、次第に痺れてくる。 尚の剣幕に、わたしは泣きそうになりながら、顔を背け、身をよじらせた。 「痛いよ、離して」 尚は次に、抵抗し始めたわたしの顔を、大きな両手でしっかりと、乱暴に掴んだ。 彼の目から、目が離せない。 烈しい目つきでわたしを見つめながら、尚は、選べ、と言った。 「はっきりしろ。家族を取るのか、俺を取るのか、いま、ここで選べよ」 わたしは、とにかく、怖かった。 あまりの恐怖に混乱し、どうしたらいいのか、わからなかった。 . 前へ |次へ |
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