《MUMEI》 遥か前方で壮絶なボールの奪い合いが始まる。 その中に倉木さんの姿があった。 俺はと言えば、遥か後方。 ゴールキーパーの手前を守る、 ディフェンダーだ。 先輩はフォワード。 やはり実力の格が違った。 ディフェンダーこそ相当なスキルや実力を必要とするが、 何しろ先輩はこのブラジルでも有名なサッカーチームの中で、 群を抜いていた。 皆との練習についていけるほどの体力を持ち、 ドリブルについては天下一品ものだった。 現地のコーチからも注目され、 練習試合にも積極的に出場させてもらっていた。 俺だって何もしなかった訳じゃない。 日本で習得した技術を生かし、 練習を積み重ねてきたし、 走り込みだって欠かさずやった。 だけどやっぱり……。 倉木さんには叶わない。 日本人同士息の合ったプレーこそは出来たが、 幾つか先輩にフォローしてもらった部分があった。 そしてその結果がこれ。 俺は遥か前方でプレーしている、 倉木さんの後ろ姿をひたすらずっとただ眺めていた。 前へ |次へ |
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