《MUMEI》 絶望的な台詞. 焦るわたしの視界の端に、ふと、あかねさんがうつった。 彼女は相変わらず、俯いていた。 そのまま、再び、長く柔らかそうな髪の毛を、耳にかける。 その、左手の薬指に、 光ったモノが、あった。 小さなダイヤモンドがついた、 シンプルな、プラチナの、リング。 それを見つけたと同時に、 −−−ドクン……… 心臓が、一度だけ、大きく鳴った。 そして、 尚が、はっきりと、口にした言葉に、 気を失いそうになった。 「結婚するんだ、俺達」 わたしは、ゆっくり瞬いた。それしか、出来なかった。 声が、出ない。 混乱して、言うべき言葉が浮かんでこない。 『どういうこと?』…違う。『聞いてないよ』…違う。『ウソつかないで』…これも違う。『冗談、きつい』…そうじゃない。 そんな、言葉を言いたいわけじゃない。 わたしが、言いたいのは…………。 「なんで……?」 ようやく口から出た声は、悲しいくらい掠れていた。 尚は、うまく聞き取れなかったのか、え?と間が抜けた声で、尋ね返した。 それが、カンに障った。 わたしは眉をつりあげて、乱暴に椅子から立ち上がる。ガタンッと大きな音を立て、椅子が床に倒れた。その音に、あかねさんは驚いたらしく、びっくりした顔でわたしを見上げた。 一方の尚は、とても落ち着いていた。 いや、『落ち着いていた』というよりも、『冷めていた』という方が正しいのかもしれない。 まるで、つまらない映画を見るように、けだるく、興ざめしたような目で、わたしのことを見つめていた。 . 前へ |次へ |
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