《MUMEI》

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わたしは、身体中が震え出すのを感じていた。それは紛れも無く、怒りだった。わたしは、身体の真ん中から、どんどん込み上げてくる怒りを、抑えることは、しなかった。

怒りに任せ、思いついた台詞を、わたしは吐き出した。


「なんで、そんなこと、わたしに言うのよ。なんで、結婚なんか……尚の結婚の報告なんか、そんなこと……」


そんなこと−−−、

そんなこと−−−、

そんなこと−−−、


…………聞きたく、ないのに。


「あんまりじゃない。わざわざ、呼び出してまで……なんで……なんで」


壊れたロボットのように、わたしは同じ言葉を繰り返した。あかねさんは戸惑ったような顔をして、尚の方を見つめたが、彼は彼女を見ることなく、わたしのことを、じっと見つめていた。

それから、

不意に、唇を、歪ませた。

尚は、せせら笑うように、なんでって……と呟き、


それから、わたしが、一番聞きたくなかった言葉を、言い放った。





「俺達、『キョウダイ』じゃん」





それは、どこかで、聞いた、台詞だった。


…………ああ、そうだ。


その台詞は、


8年前の《あの日》、


尚が、わたしに、選べよ、と返事を迫ったとき、


混乱したわたしが、

尚に向かって告げた、台詞。





−−−そんなの、選べないよ。


わたし達、『キョウダイ』じゃん……。





一瞬で、いとも簡単に、


彼を、絶望的な気持ちにさせた、





あのときの台詞と、全く同じだった……………。





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