《MUMEI》
お中元
夏休み中、一度だけ忍は俺の所に来た。


…かつてないほどの、大量の荷物を抱えて。


そして、それらを『お中元だ』と説明し高山一族の大人組に配って回った。


お中元が、各世帯ではなく個人にあった事から


多くの大人達は、『サンタクロースからのクリスマスプレゼントみたいだ』と喜んだ。


しかし、一番大きく高価なお中元を渡された志穂さんと


高山一族の中で珍しく常識人な、柊の母親の楓さんは


明らかに戸惑っており


忍は『受け取ってもらえなかったら捨てますから』と


猛暑を吹き飛ばす勢いの冷笑を浮かべたので


結局、二人もお中元を受け取ってくれた。


『大切にされてるのね、田中君は』


帰り際、志穂さんは意味不明の発言をしていた。


その意味を忍に訊く前に、忍は帰ってしまった。


(確かに、渡す時『祐也をこれからもよろしくお願いします』って言ってたけど…)


俺はお中元はそういう物だと忍に教わったから


嘘を教えられたから


忍の気持ちには、気付く事は無かった。


俺が、忍の本当の気持ちに気付くのは


ずっと、ずっと先の事だった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫