《MUMEI》

相手も負けていなかった。


日本人とブラジル人。


体格ではやはりブラジル人に分があった。


倉木さんはパスを回され、
素早いドリブルで相手を抜いて行くが、
一対一での勝負ではどうしても不利になってしまう。


そんな訳で倉木さんは、
やりにくそうにボールを追うはめになってしまった。


両軍平行線のまま後半戦へ。


相変わらず先輩は歯痒そうにプレーしていた。


そして両軍の疲れがそろそろ見え始めてきた頃、
流れが変わった。


相手チームのオフェンスがマーク陣をドリブルで抜き去り、
こちらへ上がって来たのだ。


ヤバい。


即座に俺を含むディフェンス群は身構えた。


ボールを取られては攻められ、
ゴール手前まで持ち込まれる。


必死にボールを阻止する。


それが幾度も繰り返され、一方的に守りの体制になってしまった。


残り10分。


いつ勝敗を引き分ける1点が入れられるか……。


もう時間の問題だ。


このままじゃ拉致があかない。


味方軍全員の脳裏にその言葉が過ぎったと思う。


するとそれを見兼ねた先輩は、
思いも寄らぬ行動に出た。

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