《MUMEI》 . 中年女性は来ている服に顔を近づけ匂いを嗅ぐと、思い切り眉をしかめた。 「臭いが、しっかり付いちゃってるわ!これから用事があるのに、どうしてくれるのよ!」 突然のことにわたしは狼狽し、なにも答えることが出来なかった。とっさに謝ることすらも。 それが余計に、彼女の怒りに触れてしまったようだ。 「あんたじゃ話にならない!責任者はどこ!?今すぐここに、呼んで来なさいよ!」 彼女が叫んだことにより、周りを歩いていた他の客が、チラチラとこちらへ視線を投げかけてきた。それを感じて、わたしは、とても恥ずかしく、いたたまれない気持ちになった。 女性の叫び声を聞きながら、他の派遣スタッフがレジへ向かう姿が目に入った。きっと、内線でセクションスタッフを呼び付けるのだ。 わたしは、困惑しながらも、彼女に謝る。 「申し訳ございません」 しかし、彼女は取り合わず、あんたの顔なんか見たくない、と言い放った。 そうこうしている内に、プロモーションスペースへ、サブチーフの矢代さんと、百貨店の社員が駆け付けてきた。 「大変お待たせ致しました。責任者の矢代と申します」 ここに着くなり、矢代さんはハキハキと女性に名乗った。女性はギロリと矢代さんを睨みつけて、大声で怒鳴りつける。 「このひとが香水をばらまいて、わたしの服にかかったのよ!臭いが、ついてしまってるでしょう!?」 矢代さんはそれを聞いて顔を強張らせた。それから背筋をピンと伸ばし、女性の顔をまっすぐ見据えて、大変失礼致しました、と深々と頭を下げた。 「御召し物は責任を持って、わたくしどもが弁償いたします。この度は、誠に申し訳ございませんでした」 誠意のある言い方で謝罪し、それから弁償の方法について、百貨店の社員と、女性客との3人で話し合うと、女性はとりあえず納得したようだった。 . 前へ |次へ |
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