《MUMEI》
彼女から離れて足を投げ出した。
試合は佳境に向かっているようで、ステージの下にいるクラスメイト達が騒いでいる。
頑張れとか、負けるなとか、そう言った声援を送っていた。
人間の腕に弾き飛ばされるボールを何処か遠くに感じる。
「噛み付いてごらんなさい、お仕置きしてやるわ。見たって、どうせ頭には入らない癖に……」
紗夜の声すらも遠くに感じていた。
自分から離れたのに、温もりを感じられないことを淋しく思った。
教師が笛を笛を鳴らす。
体育館に甲高い音が響き渡り、生徒は動きを止めた。
試合が終わり、次は3組と4組の試合だ。
私と紗夜は無言でステージから降りてコートに向かう。
クラスメイトに、頑張ろうねと言葉を掛けられた。
「うん、頑張ろうな!」
障り辺りなく応えて俺は首尾に着いた。
試合が始まってから暫く経った頃、其は起こった。
バシーン、とボールが体に当たる音。
今までとそう変わらない音に混じって、紗夜の高い声色が聞こえた。
其は呻き声で手を押さえてしゃがみ込む紗夜の姿を視界に捉える。
3組の生徒が紗夜に駆け寄り、「大丈夫?」と尋ねている。
館内が騒(ざわ)めき、紗夜は教師に連れられて消えた。
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