《MUMEI》

「賢史、上がれ!!」


「はい?」


倉木さんが、コートの中間付近から大声で怒鳴った。


「早くこい!」


何が何だか見当もつかなかった。


だって俺のポジションはディフェンスなのだ。


当然各々にディフェンスラインが決められており、
多少はそれを越えても大幅に越えることなど出来やしない。


勿論このフォーメーションは現地の監督が決めたことで、
勝手は許されないに決まっている。


なのに何故?


頭に幾つもの疑問符が上がる。


先輩は未だに、


「賢史、いいから来いよ!」


ずっとこう叫んでいる。


俺は考えた。


倉木さんはある何かを目論んでいて、
俺を必要としているのか?


ん?


俺を必要としている?


倉木さんが?


あの大先輩が?


ここまで考えて俺はなりふり構わずに、
倉木さんの元へ駆け出していた。


よほど嬉しかったんだと思う。


これほど倉木さんから、
人から必要とされたことを嬉しく感じたことは無かったから。

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