《MUMEI》

「おかえり。」


「ただいま。」

七生は自然に挨拶を交わしてくれた。そんなやり取りだけで安心した。


「私……帰ります。」

瞳子さんが観覧車から降りるやいなや、駆け足で走って行ってしまった。
あまりに気まずくなって俺は何も言えなかった。


「俺、瞳子さんと外国行くよ。」


「七生……!いいのか?」

修平さんは顔を綻ばせた。


「うん、俺……婚約、ちゃんとするわ。」


「おめでとう、七生……」

心の底から、祝福してやろう。
だって、こんなめでたいことってないじゃないか。


「うん。」

淡泊に返された。


「七生、それより瞳子さんを追いかけてあげなくていいの?」


「瞳子さんは急用だったみたい、入口に車待たせてあるから大丈夫。」


「そ、そう。」

婚約者ってそういうものなのか?

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