《MUMEI》 話すこと. −−−8年前の、《あの日》、 わたしの想いが生まれ、 そして、 尚の想いが死んだ。 それから時は流れて、 今度は、 わたしの想いが、 死んだのだ。 わたしは、《世界》が終わったばかりで、 どうやって立ち上がればいいのか、 どんなふうに歩き出せばいいのか、 わからずに、いた。 ****** 「芽衣ちゃん?」 不意に、名前を呼ばれて、わたしはゆっくり振り向いた。 そして、目を見張る。 街の雑踏の中、わたしの後ろにいたのは、あかねさんだった。 彼女はわたしの顔を確認すると、はしゃいだように笑った。 「やっぱり、芽衣ちゃんだと思った!」 すっごい偶然ね、と、ふんわり笑う彼女の顔を、わたしはぼんやりと眺める。 −−−今日は、 今日は土曜日で、仕事は休みで、わたしはヒマで。 でも、家にこもっていると、どうでもいいことを考えてしまいそうで。 だから、街を適当にブラブラしようと、そう、思って、出掛けたのに。 まさか、こんなところで、 このひとと、 鉢合わせしてしまうなんて。 あかねさんは、朗らかな声で尋ねてくる。 「今日は、お仕事、お休みなの?」 柔らかい抑揚を聞き、わたしは瞬いた。 なんで、このひとは、わたしに声なんかかけてきたのだろう。 そんなことを考えながら、わたしは頷いた。あかねさんは、わたしも同じ、とニッコリ笑う。 そして、こう言ってきた。 「もしよければ、お茶でも飲まない?ちょうど、ひとりで寂しかったの〜」 断りたかった。あかねさんと、一秒だって一緒にいたくなかった。 尚の『オンナ』と話すことなんか、なにもない。 けれど、彼女は、わたしの返事を聞くまえに、手を取った。 「ね、ちょっとだけ。いいでしょ?」 そう言って、あかねさんは強引にわたしの手を引き、近くの喫茶店まで連れて行った。 . 前へ |次へ |
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