《MUMEI》

 体育館に戻ると決勝戦が繰り広げられていた。
4組と1組の戦いだ。
俺は教師の目に着かぬようこっそりと、そして、飽くまでも堂々とした態度で、固まって観戦しているクラスメイトの群れに紛れ込む。
彼女達は、今まさに決戦の舞台であるフィールドの真横、丁度得点表の隣で熱く燃え盛っていた。
負けたことで行き場のなくなった闘志を応援に変換しているらしい。
それはもう、物凄い声で声援を送り、時には野次すら飛ばすのだ。
女って生き物はバワフルだなと、圧倒されながらも得点表の裏に回り込む。
よっこらせ、と親父臭い掛け声と共に腰を下ろし、壁に寄り掛かる。
頭の中では誰に伴奏を頼もうか考えていた。
 実際、この学校の中でピアノを弾ける人間は少ない。
楽器を弾ける人間は、大抵が管楽器や打楽器系統の者なのだ。
弾けない訳ではないだろうが、短時間で一曲の楽曲を仕上げるのは難しいだろう。
最悪棄権だな、などと暗い予想を立て溜息を吐いた。
「あ、賀さんだ。お帰りー。岬さんとこ行ってたんでしょ? どうだった、様子」
不意に声が掛けられる。
自然と俯いていた顔を上げると、得点表の向こう側から顔を覗かせる一人のクラスメイトがいた。

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