《MUMEI》
《はじまり》のはじまり
.




「…これが、最良の選択だと思うんだ」





固い声で、お父さんが言った。お父さんの表情も、その声に負けないくらい、固いものだった。

お父さんに合わせるように、お母さんもその言葉に頷いた。


「お母さんも、それが一番、いいと思うの。寧々の、今後のことを考えても、ね…」


どこか、未練を残した、言い方だった。大切な『なにか』を、諦めるような、そんな寂しい響き。

わたしは、目の前で黙り込んだ両親を交互に見つめた。自宅のリビングは、すっかり静まり返って、そこに立ち込める空気は冷え切っていた。

神妙な顔をしているふたりを見ながら、わたしは一度、瞬いた。


そして、


それに、静かに答える。





「わたしも、そう思う」





−−−これが、


わたしが、『突然の転校』に承諾した、瞬間だった。





この先、


わたしを、待ち構えている、





『運命』を、知るよしもなく…………。





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