《MUMEI》
葛西先輩を選んだ理由
「ちょっと質問していいか?」

「何?」


(俺以外には、普通なのか)


高遠光は、祐に営業スマイルを向けた。


「今回、君から雅樹を指名したって聞いたんだけど」

「『君』って気持ち悪いから、光でいいよ」


ゾクッ!


(今度は前からか)


振り向かなくても、小暮さんが不機嫌なのはわかったが、それは俺だけで


「わかった。光な」

「ん」


高遠光と祐は、何も気付かずに会話を続けた。


「でさ、質問の答えなんだけど」

「写真、見たんだよね。あんたの」

「…祐」


『あんた』と指差された祐は、改めて名前を名乗った。


「祐の、写真」

「どんなの?」

「いかにも『生きてます』って感じの」


(それは、俺も思った)


動いている人間の


ほんの一瞬の輝きを的確に、葛西先輩はレンズにおさめるのだ。


「俺、前にも写真集出したんだけど、はっきり言って着せかえ人形みたいだったんだよね」

「それでも素材がいいから、売り上げ良かったけどな」


小暮さんが会話に入ってきた。


「…見たの?」

「社長がくれた」


高遠光は、少しだけ照れていた。

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