《MUMEI》

「しゅーちゃん、もう一回だけ観覧車乗るわ。今度は二郎と行ってくる。」

戻って来たので、係員の人は不思議そうに見られた。


「……男二人で観覧車ってなんか……」

目立つ。


「気にするなよ、トモダチなら。」

友達を強調された。


「わかってる。」


「うん、そういう物分かりの良さ……」


「好き?」

七生の一秒先の考えてることくらい読める。


「じゃあ、俺が次に考えてることはわかる?」

出題された。


「うん。
でも、無理。……俺は生きているし、七生の思うようにはならないよ。」


「俺が支配したがってるみたいだな。」


「ちがうの?」

その問い掛けには間を置いて、口ずさんだ。


「……舞姫。」

俺にはすぐわかった。
七生は、ひたすら観覧車の中で暗唱していた。


「鴎外はさ、ドイツで知り合った女性が日本へ追いかけて来たとき、帰したんだよね。
きっと、帰された後も鴎外の幸福を願いながら愛し続けてたんだろうな。」

そう言って、窓の外のネオンを見ていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫