《MUMEI》

喬路。
フルネームを喬路 貴姫(タカミチ タカキ)と言う、歴とした女子である。
吹奏楽部でクラスメイトの彼女とは比較的親しい方だった。
紗夜とも仲が良い子だから、不思議と安堵感を抱く。
目線を火柄に合わせると彼女は表情を和らげた。
矢張り嬉しそうな顔で力一杯に頷く。
「そうそ、喬路。賀さんの頼みだもんね、喜んで引き受けるよー」
ゆるゆるとした締まりのなさを維持したままで、火柄は何故か発表するかのように片手を挙げた。
勿論、意味はないらしくすぐに下ろされる。
「タカちゃーん! カモーン! 集合ー! いらっしゃーい!」
そして、くるりと体の向きを変え、未だに尋常ではない大きさの声援を繰り出す集団に向かい、その声援に負けないぐらいの声量で呼び掛けた。
喬路が物凄く恐ろしい形相で振り返るのが目に入る。
彼女は立ち上がると集団から離れ火柄に詰め寄った。
 もう少しマシな呼び掛けは出来ないのだろうか、と思わないでもないが、恐らくはこういう子なのだろう。
そう、天然なのだ。
俺は一つの確信を得て、不謹慎にも少し満足してしまった。
 目の前では喬路に叩かれた頭を押さえている火柄がいる。

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