《MUMEI》

「ナツ。それは確信犯的ボケ? それとも素なの? どちらにしても笑えないけど。もう少し落ち着きなさいって、いつも言ってるでしょうが。ああ、ホント、ハズいったらないわ。今からでもアンタの親友辞めようかしら」
「えー! 私なんかした? 呼んだだけじゃーん! 横暴だよ、そんなのっ」
喬路の容赦ない責めが入ると、火柄の頬が空気で膨らんだ。
小学生みたいな行動に、ついつい笑ってしまう。
だが、喬路はニコリともしないで拳を握った。
「ハイハイハイ。それはまた後でね。で? 何の用。あんなデカイ声で呼んだのに大したことなかったら怒る」
「うー、賀さんのためだもん! タカちゃんなら知ってるかなって思って!」
「あー、ゴメ。話が見えない。何で此処に賀が出てくんの? 賀は岬のとこでしょうが」
喬路は俺に気付いていないようで心底意外そうな顔を晒す。
「帰ってきたの。其処に居るよ? ねー、賀さん」
得点表の上部に両腕を掛け、顔を此方に向けた火柄の顔は、もうにこやかなものに戻っていた。
得点表が火柄の体重でガタガタと揺れる。
「ああ、何だ賀。居たの。声掛けてよ」
喬路が裏側に回ってきて、俺の隣に座った。

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