《MUMEI》

俺は倉木さんの足が、
しっかりとボールを捕えたのを確認した後でスタートした。


相手を大きな障害物だと無理矢理思い込むことにし、
倉木さんがパスを出しやすい位置を探す。


そして倉木さんが詰まった所で、
タイミングよくパスを貰う。


其れを繰り返しながら、
じりじりと上へ上がって行った。


観客は突然の俺達の行動に驚き興奮しているのか、
さっきから応援コールがなりやまない。


そんな中、俺はとんでもないミスを犯してしまった。


倉木さんが相手チーム3人と対峙している所に、
パスを出してしまったのだ。


こちらも相手チームに囲まれたもんだから、
反射的に出してしまったものの、
もう少しよく判断すべきだった。


倉木さんが対峙しているのは3人。


俺は2人。


どう考えても俺のミスだ。


この瞬間、
観客席からあー、と、
嘆きに近い溜め息が漏れた。


おそらく観客も分かっていたんだろう。


俺がミスを犯したということと、
倉木さんが相手にボールを取られるであろうということを。


だが俺はまだまだ甘かった。


先輩の実力を、
心の奥底で見くびっていたんだろうか?


ここからが、
先輩の本領発揮だと知らなかった。

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