《MUMEI》

優しく導く様な口調に、ショコラは漸く顔を上げ
「……ショコラ」
蚊の泣く様な声で名前を名乗っていた
その小声に北沢は微笑を浮かべながら
「ショコラちゃんか」
ショコラの名を繰り返し、まじまじと眺めてきた
じっと見られ戸惑うショコラ
どうしたのかとうろたえ始めれば
北沢の腕に突然抱かれる
「大丈夫、大丈夫だよ」
不安気な顔ばかりのショコラを宥めるかの様に
ひどく穏やかに背が叩かれた
その柔らかな手の感触に落着きを取り戻したのか
漸くショコラの全身から緊張が取れ、笑みを浮かべる
「やっぱり女の子は笑ってるのが一番だね。可愛い」
頭を撫でられ、そして北沢が徐に後ろの男共へと振りかえった
「ね、女の子の制服みたいなのない?」
「は?何すんだよ、そんなもん」
突然の北沢からの問いに、相手は怪訝な顔
だが北沢は詳しく返してやる事はせずに服を漁りに店の奥へ
その意図を理解出来る者は誰一人その場にはおらず
事の次第を唯々眺め見るしか出来なかった……

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