《MUMEI》

何か言いた気に俺を見ている喬路に、俺は苦笑を返す。
「お前等、漫才でもやったら? 入り込む隙が無かった」
「それを言うならさ、賀と岬も入り込む隙ないけどね。まあ、アンタ等はお笑いって感じじゃないか。此方はアレが天然だから、必然とお笑い度高まる訳だ」
喬路の、楽器を扱う繊細な手が、指が、火柄を差し示した。
喬路は笑っている。
何だかんだで火柄を認めているのが伝わってきた。
「やっぱ天然か。可愛いよな、火柄さん」
「まあね。でも、駄目だよ。アレ、私のだから」
喬路の目が悪戯に細まり、その視線は火柄から外れ俺を捉えた。
 羨ましく想うのは何でだろうか。
当たり前かの如く発せられた躊躇いのない喬路の発言が、羨ましかった。
俺は彼女から目線を逸らす。
「賀だって……」
喬路が何か言い掛けて、間を取った。
何故だろう、続きは聞きたくない。
「二人共! 何でそんな親しげかな? タカちゃん狡い! 私だって賀さんと仲良くしたいのにー」
そんな俺を救ったのは、頭上から降ってきた火柄の能天気な言葉だった。
火柄は得点表から体を離し俺の前までやってくると、喬路と俺の間に、ドスンと乱暴な仕種で腰を下ろした。

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