《MUMEI》

「お久しぶりです、クラウスさん」
突然、目の前に小さな人の影が現れる
背に生やしている羽根を忙しく動かすその人物は
この書斎の番をしている妖精のリヴ・フェアリーで
クラウスの来訪に随分とはしゃいでいた
「相変わらず元気だけはいいな。リヴ・フェアリー」
自身の髪の先にじゃれつくリヴを落ち着くよう宥めてやれば
落ち着き、クラウスへ何用かを問う
「探したいものが有るんだがいいか?」
「勿論です」
御自由にどうぞ、とのリヴに、クラウスは笑みを浮かべると更に書斎の奥へ
一冊一冊手に取って眺めながら
自身の探す情報がないかを漁ってみた
だが中々見つからず
其処にある書物の半分程度読み漁った所で
流石のクラウスも疲れたのか、近くあった椅子へと腰を降ろした
「一体、何をお探しなんです?」
疲労困憊するクラウスを見、リヴが気遣いに茶を運んできた
短く礼の後、茶を一口
その程良い味にほっと胸を撫で下ろした
漸く落ち着いたと全身から力を抜いた矢先
傍らにあったテーブルの上へ、他の本よりもかなり古めかしい一冊を見つけ、手に取ってみた
Diary
表紙にはそう記してある
「リヴ、これは?」
何故かそれが気に掛ったクラウス
リヴへと問うてみれば
「それは多分、大殿の日記だと思います。生前、毎日日記を書くのを習慣にされていましたから」
「日記、か」
暫くその拍子を眺め、そして開く
中は日記とある様に日々あった事などが細々と書き記されていて
クラウスにとっても懐かしい記述が多かった
懐かしさに本来の目的を忘れ掛けた頃「この、日付は……」
頁も半ば
とある日付にクラウスは捲る手を止めた
そこに記されている日付
その日は、この日記の主がこの世から去った日で
日記も当然、その日で終わっていた
中を、読んでみれば
其処にはか自らの死を覚悟していたような記述ばかりで
その中に
ケルベロスを従える男の記述は在った
詳しいそれこそなったものの、かつて関わりがあったのだと分かり
クラウスはまた考える事を始めてしまう
「ク、クラウスさん?」
眉間にしわで考え込むクラウスへ
リヴが恐々声を掛けてきた
何だ、と返してやれば
「そう言えばその日、大殿はひどく落着きがありませんでした。なんて言うか、何かに怯えていたというか」
リヴの言葉に、クラウスはさも意外だと改めて日記へと視線を落とす
クラウスの記憶の中にあるその存在とはかけ離れる程の量の弱音と怯え
見るにいたたまれなくなり、それを閉じ腰を上げた
「クラウスさん、調べ物はもういいんですか?」
小首をかしげてくるリヴへクラウスは本を徐に投げて渡すと
口元に薄い笑みでその場を後にしていた
自室への道程をゆるり歩きながら
考えこむことばかりに脳みそを働かせていた……

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