《MUMEI》

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「小田桐さんッ!!」





わたしは、大声で小田桐さんの背中へ呼びかけた。

切羽詰まったわたしの声に、彼女はビックリしたのか、足を止めて、勢いよく振り返って、

それから呆れた表情を浮かべた。


「…中塚さん」


ぼやくように、わたしの名前を口にする。

彼女が立ち止まったことで、わたしはすぐに追いついた。ここから『花園』までは、目と鼻の先だ。

わたしは肩を上下させて呼吸を整える。

小田桐さんはわたしをじっと見つめて、それから、腕を組んだ。


「そんなに慌てて、どうしたの?」


いつもと同じ、淡々とした物言いだったけれど、その抑揚には欝陶しさが入り混じっていた。

わたしは一度、大きく息を吸い込んで、それから言った。


「…どこに、行くの?」


額に浮かんだ汗を拭いながら、小田桐さんを見つめ返す。彼女は、わたしの不躾な質問に眉をひそめた。


「なんで、そんなこと聞くの?」


すかさず質問を切り返してきた。答えたくないのだ。

小田桐さんは、わたしが『ソウ』さんに近づくのを、快く思っていない。


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