《MUMEI》
それでも、吹奏楽部はピアノ無しのアレンジで切り抜けられる。
そういうことらしい。
言うのを渋った自分が馬鹿らしくなった。
「だからね、カヨちゃんはピアノ巧い子を紹介して欲しいんだってー。タカちゃん、誰か知らない?」
「ああ、そういうことね。賀が雑談する為に私を呼ぶ訳ないし、何かと思ってたけど」
納得した、と喬路の首が頻りに上下した。
腕を組み顔を上方に逸らすと、喬路は目を瞑る。
記憶を辿っているらしい。
「ねー、タカちゃん」
「何。今集中してるんだから邪魔しないで」
暫く沈黙が流れるも、火柄の問い掛けで破られた。
喬路の目が薄く開き、軽く火柄を睨み付ける。
「あのさー、前に何か言ってなかった?」
「だから何を」
「だからねー、天才ピアニストがうちのガッコに入ってきたとかなんとか。興味無かったから聞き流してたけど、今ちょっと思い出したの! 偉い?」
えへへ、と自慢気に火柄が笑う。
嬉しそうだ。
俺は真偽の程を確かめようと喬路を窺った。
「それだ! ナツにしちゃあ偉いわ。……一学期入ってすぐに、ある噂が入ってさ。それが、新入生に天才ピアニストがいるってやつ。13歳にして大人顔負けの腕前だとか聞いたけど」
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