《MUMEI》
会いたかったひと
.

わたしは泣きながら、それでも小田桐さんを睨みつけ、渾身の力を振り絞り、大きな声で叫んだ。



「わたしは、絶対、逃げない」



小田桐さんは、なにも答えなかった。本当に驚いたような顔を、ただ、わたしへ向けていた。そんな表情を、無防備に浮かべる彼女が、とても意外だった。


わたしの目から、たくさんの涙の雫たちが、次から次へとあふれ出る。

わたしは固く目を閉ざす。涙は幾筋にも流れて、わたしの頬に跡を残した、




−−−その瞬間。



「どうしたの?」



だれかが、そう、言った。

わたしの涙が、ピタッと止まる。

伸びやかな、オトコの、声。

柔らかなそよ風を、思わせる、優しい抑揚。



………この声、


聞いたこと、ある。



じっと、記憶をたどり、

それから、ハッとして振り返った。



咲き誇る、キンモクセイの向こう側。


そこに、いたのは…………。





「そんなに泣いて、なにかあった?」





きらきら輝く、そのひとのキレイな瞳を見て、



わたしは、目を見張る。



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