《MUMEI》 会いたかったひと. わたしは泣きながら、それでも小田桐さんを睨みつけ、渾身の力を振り絞り、大きな声で叫んだ。 「わたしは、絶対、逃げない」 小田桐さんは、なにも答えなかった。本当に驚いたような顔を、ただ、わたしへ向けていた。そんな表情を、無防備に浮かべる彼女が、とても意外だった。 わたしの目から、たくさんの涙の雫たちが、次から次へとあふれ出る。 わたしは固く目を閉ざす。涙は幾筋にも流れて、わたしの頬に跡を残した、 −−−その瞬間。 「どうしたの?」 だれかが、そう、言った。 わたしの涙が、ピタッと止まる。 伸びやかな、オトコの、声。 柔らかなそよ風を、思わせる、優しい抑揚。 ………この声、 聞いたこと、ある。 じっと、記憶をたどり、 それから、ハッとして振り返った。 咲き誇る、キンモクセイの向こう側。 そこに、いたのは…………。 「そんなに泣いて、なにかあった?」 きらきら輝く、そのひとのキレイな瞳を見て、 わたしは、目を見張る。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |