《MUMEI》 . 小田桐さんも、振り返り、 それからどこか、ホッとしたような表情を浮かべ、 その名を、呼んだ。 「ソウ…」 彼は、一度、彼女へ視線を流したが、すぐにわたしの顔へ向き直ると、 フワリ…と、その優しげな目元に、ほほ笑みを滲ませたのだった。 「キレイな顔で、泣くんだね…」 そう言われた頃には、 わたしの涙はすっかりひいていて、 ただ、信じられない気持ちで、 『ソウ』さんの眩しい笑顔を、見つめていた。 ◆◆◆◆◆◆ ソウさんは、また、私服だった。 《あの日》と同じように、この中庭へ姿を現したのを、夢のように感じた。 彼はわたしにほほ笑みかけたまま、近づいてきた。彼が歩くたび、砂利が鳴る。 「どうして、泣いてたの?」 わたしは、彼の目を見つめ返したまま、呆然としていた。言葉が出てこなかった。目を、逸らせなかった。 . 前へ |次へ |
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